緑慎也の「ビル・ヘイビーっち覚えとって」

科学ライターですが、科学以外のことも書きます。

本庶佑氏のノーベル賞受賞

ノーベル生理学・医学賞に本庶氏 免疫の仕組み解明」という日本経済新聞の速報メールで、本庶佑氏のノーベル賞受賞の決定を知りました。

ちょっと意外だったのは、「免疫の仕組み解明」です。本庶氏は、免疫記憶の研究で偉大な成果を上げています。多種多様な外敵(抗原)に対処するため、外敵の多様性を上回る多様性を免疫系が獲得する仕組みを解明したのです。日本人としてはじめてノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏も、免疫系の多様性獲得の仕組みの解明が評価されましたが、本庶氏の成果は、利根川氏の発見とは別です。二人の成果は相互補完的なので、利根川氏の成果がノーベル賞なら、当然、本庶氏の成果もノーベル賞に値するとみられていました。

しかし、世間的によく知られているのは、免疫チェックポイント阻害剤、すなわち商品名オプジーボの開発に対する貢献です。どちらかというとこちらのほうがノーベル賞に近いと思っていました。

「免疫記憶のほうで受賞なのか!」と驚いて、急いでノーベル賞のホームページを見ると、「Cancer therapy: Releasing the brakes of immunity」とあり、案の定、免疫チェックポイント阻害剤の開発への貢献が受賞理由だとわかります。その後、日経の記事を見ると、中身はやはりオプジーボの話がメインです。がんが免疫系の働きにブレーキをかける仕組みを解明したことが、オプジーボにつながっているのはたしかですが、ちょっと紛らわしい見出しですね。

さて、私は2016年、立花隆さんに同行して、本庶佑氏の研究室を訪ねました。二人の対談を月刊「文藝春秋」(2016年5月号)にまとめるためです。これまでのがん免疫療法が効かなかった簡潔にして本質的な説明、本庶氏が「これは薬になる!」と確信していたものの日本では相手にされなかった話、大学発のヒット薬の利益を大学に還元して基礎研究を充実すべしとの提言など、今読んでも、参考になる部分が多いので、是非、お読みいただければと思います。

本庶氏の成果について、非常にわかりやすくまとめられているのは、岸本忠三/中嶋彰『現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病』(講談社ブルーバックス)の第4章です。併せてオススメします。