緑慎也の「ビル・ヘイビーっち覚えとって」

科学ライターですが、科学以外のことも書きます。

チバユウスケの答えは

チバユウスケの歌を聴いて、どんなイメージが心に浮かぶでしょうか。といって耳にしたことのない人には何のことやらだとは思いますが続けます。

 

Thee Michelle Gun ElephantTMGE)のライブ映像をライブハウスとか映画館で爆音上映したイベントのパンフレットに、作家の角田光代さんが、チバユウスケの歌を聞くと、特に花の名前が多く出てきて、とても色鮮やかな風景が目に浮かぶ、そこから何を汲みとるかは人それぞれである、といった趣旨のことを書かれていたと思います(すいません、パンフが今、手元にないので原文を確かめていません)。

 

たしかにその通りなのですが、私が心に浮かべるのは、彼が歌詞の中で直接的には言及していないこと、それゆえに強烈な存在感を放っているものです。

 

それは原爆です。

 

たとえばThe Birthdayの新しいシングル「THE ANSWER」。公園で、のどかな時を過ごす男と女。ふと頭を上げると、虹が見える。その先に「答え」がある。歌詞の中で、「答え」が何なのか、具体的には触れられません。しかし2番に続く、「炎の人 あっという前に」、「水の人 何も言わずに」というフレーズが、劫火に焼かれた人々、ひどい火傷を負いつつ水を飲みながら亡くなった人々を連想させます。

 

「THE ANSWER」で描かれる情景は、TMGE初期の代表曲「世界の終わり」の情景に似ています。「世界の終わり」の「君」は、紅茶を飲み干して、パンを焼きながら何かを待っている。「THE ANSWER」の「君」も、虹の他に何かを見ている。私には、その「何か」が原爆に思えてなりません。

 

もちろん原爆でなくても、世界に終わりをもたらすようなものであれば、「何か」に当てはめるものは人それぞれ自由に決めていいのかもしれません。巨大地震津波、噴火などの自然災害でも、人間関係、会社、国家でもよいでしょう。

 

しかし、チバユウスケの詩は、原爆のイメージを巧みに取り込んでいると思います。「マシュマロモンスター」しかり、「リボルバー・ジャンキーズ」のはじかれたキャンディーしかり、「裸の太陽」しかり、「ドロップ」しかり、「暴かれた世界」におけるオレンジのハートしかり。そのものずばり「さよなら最終兵器」もある。挙げていけば切りがありません。というか、すべての歌詞に原爆のメタファーが出てきます。

 

破滅が近づいたとき、何をすべきなのか。チバの答えは明快で、踊れ。今まさに世界が終わる、その瞬間まで踊り続けよ。

 

一見、呑気なメッセージのようですが、実際に曲を聴くと、破滅を前にしたとき、われわれは本当に頭をまっ白にして踊り続けるしかないんじゃないかと言う気がしてきます。一曲一曲に、ロックの強度というのか、そういうものを感じさせるところが、チバユウスケの歌詞の好きなところです。