緑慎也の「ビル・ヘイビーっち覚えとって」

科学ライターですが、科学以外のことも書きます。

「文學界」7月号「対談 AIとAR時代の文学」

文學界」(2018年7月号)に掲載されている「対談 暦本純一(東大大学院情報学環教授)×上田岳弘 AI(人工知能)とAR(拡張現実)時代の文学」という記事を紹介します。同記事の構成を担当しました。
この仕事のお話をいただくまで、恥ずかしながら上田氏の小説を読んだことがありませんでした。しかしデビュー作『太陽』から読みはじめて、すぐに引き込まれ、学生時代に愛読したミシェル・ウェルベックを思いだし、日本にもこんな作家がいたのかと驚きました。科学技術をモチーフとしている点、物語の語り手が次々と変わっていく点が、ウェルベックの『素粒子』や『ある島の可能性』を読んでいるときの印象に近かったからです。上田氏の話ではじめて知りましたが、物語の語り手が、「私」から「あなた」へ、あるいは「彼」「彼女」へ移ってゆく小説を「移人称小説」と呼ぶそうです。
一方、暦本教授はVR、AR技術の研究者として著名な方ですが、私にとっては何よりも「ThumbSense」というソフトウェアの開発者です。Thumb、つまり親指をノートパソコンのタッチパッドに触れ、キーボードのfを押して左クリック、mを押してマイドキュメントを起動するなどの操作を可能にしたソフトウェアです。普通、タッチパッドでクリックしたり、スクロールしたりしようと思ったら、いったん手をキーボードから下に移動させる必要があります。しかしThumbSenseを使えば、親指を下にずらすだけで、残りの指はキーボードに置いたまま、あらゆるタッチパッド操作ができ、極力、キーボードから手を離したくない私には大変ありがたいソフトウェアでした。過去形なのは、Windows最新版にはこれが対応していないからです(たぶん)。MacにもKarabinerというソフトウェアにThumbSenseと同様の機能がありましたが、MacOSの最新版にはまだ実装されておらず、やむなく手を下にずらしてタッチ操作をしています(ThumbSense機能がなくてもKarabinerを重宝しています)。
話が逸れました。暦本教授の研究テーマは「人間拡張」で、ヘッドマウントディスプレイ、ドローン、キネクトタブレットなどさまざまなデジタル機器を組み合わせて、ユニークなシステムをたくさん開発されています(ThumbSenseも「人間拡張」の例の一つですね)。以下、記事を書くときに参照したページを紹介します。それぞれのページにある動画を見ていただくと、上田氏と暦本教授のお話が理解しやすくなるのではないかと思います。


カメレオンマスク

lab.rekimoto.org


フライングヘッド

lab.rekimoto.org


Jackin Space

lab.rekimoto.org

少し前にウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』を何とか読み通したものの未消化感が残っていましたが、暦本教授の研究に触れた後に読み返すと、ギブスンの世界が理解しやすくなっていました(それでもまだわかりにくいところはありますが)。上記のJackInは『ニューロマンサー』に直接インスピレーションを得て開発されたものです。
バーチャル・ユーチューバーなるものを知ったのも、お二人の対談がきっかけでした。

 

www.youtube.com

記事を書く参考のために見始めたら、輝夜月にハマってしばらく抜け出せませんでした。中毒性があります。
ともかく対談では、お二人がJackInと移人称小説、AIと創作、AIと経済活動など刺激的な議論を展開しておられます。是非お読みください。