緑慎也の「ビル・ヘイビーっち覚えとって」

科学ライターですが、科学以外のことも書きます。

ゾロメ死去

友情の連鎖。ゾロメの生涯からそんな言葉が思い浮かびます。

5月9日に大分市高崎山自然動物園で元C群ボスザルのゾロメの死が確認されたらしい。

www.huffingtonpost.jp

伝説のボスザルと言えばベンツです。2013年9月に姿を消し、3カ月後、大分市街で発見、保護され、群れに戻されてボスに復帰しました。霊長類学者たちの長期にわたるフィールドワークによれば、ボスは一カ月でも群れを離れると、たとえ群れに戻っても、血気盛んなオスたちに追い立てられ、ボスの座に返り咲くことはないというのが常識。ベンツはこれを覆したわけです。この経緯はテレビでも盛んに報じられ、人々を、特に高齢者の方々を勇気づけました。ベンツのボス復帰は、輝ける第二の人生の象徴だったからです。当時ベンツは35歳で、人間で言えば100歳以上でした。

それで私も、ベンツに注目して、2015年に『消えた伝説のサル ベンツ』(ポプラ社)なる本を上梓したわけです。でも、この伝説は、ゾロメがいなければ成立しなかったとつくづく思います。ゾロメはベンツ失踪後、2位から自動的にオスザル順位の1位に繰り上がりました。ベンツ不在の群れで、ゾロメはそれまでより堂々としたボスザルらしい振る舞いをしていたそうです。しかしベンツが戻ってきたとき、ゾロメはいち早くベンツの毛づくろいに向かいました。年もベンツより若く、腕力では明らかに上のはずです。しかし服従する姿勢を示した。こうして異例のボス復帰が実現したのです。

ベンツも若かりし頃、先代のボスであるゾロのピンチを救ったことがありました。ボスのピンチを救うのか、あるいは利用して下克上をしかけるのか。これは2位に課せられた永遠の命題です。ベンツは、2位の立場にいながら、1位を助けた。これを近くで見ていたのがゾロの弟、ゾロメでした。

もちろんサルにはサルの論理があるでしょう。友情の連鎖なんて的外れかもしれない。でも、ゾロとベンツの友情が、ゾロメにも受け継がれたように思えてなりません。